狂走!第三京浜Run and Run[フィクションです。植地浩志(うえちひろし)のショートストーリー]
【第一章】
今日、大学の講義が臨時休講になったと言うう朗報が、友人から、はいった。 『Oh!最高の気分』−だ。 ふと、ひさびさに、陽のの高いうちに、湘南海岸まで、とばしてみよう・・・などと、思いついた。
普段は、東京都下の武蔵野市吉祥寺から、湘南海岸まで、とばすのは、深夜であることが、ほとんどだ。 湘南海岸までは、深夜の交通量の少ない時間帯だと、わずかに45分ほどで、到着する。江ノ島で、Uターンして、夜が明ける前に、帰ってくることが多かった。 わたしは、さっそくシャワーを浴びて、昨夜、おそくまで飲んでいた、気怠い酔いを、醒ました。 わたしは、パジャマがわりのダンガリーシャツを、引き裂くように、脱ぎ捨てて、ベッドの上に蹴り飛ばした。 かわりに、レノマの純白のシャツを、はおるように、着た。
【第二章】
わたしの通学用マンションは、東京都下の閑静な住宅街である、武蔵野市吉祥寺の市役所の傍にあった。吉祥寺という街は、遊びには最高の場所かも知れない・・・。 マシーンをとめているモータープールは、マンションの階段を降りてから、徒歩、数分の場所だ。 素足のままで、ケッズのスニーカーをはいて、モーターサイクルなどのキーと、一緒に、たばねたキー・ホルダーを持って歩くと、なぜか、こころが軽くなる。 屋根付きの駐車場の最奥部にスペースを借りている。わたしの、セリカ1600GTVは、そろそろ、慣らし運転も終わることだ。 セリカ1600GTVは、ノーマル仕様でも、もともと高速設定でDOHCエンジンにソレックスのツインキャブレィターを装備していた。 サスペンションは、『標準仕様のセリカ1600GTV』でも、GTV専用の堅目の設定で、車高は、標準でも低く見える。 タイヤは、標準で、185/70HR13のワイドラジアルだ。 このマシーンは、チューニングというほどではないけれども、スピード・ショップ○○○で、吸排気ポートの研磨や、プラグを、高速用にしているために、日立のトランジター・イグナイターで、点火プラグに、強力なスパークを、とばすようにしている程度だ。外装は、前部のFRP製のエアスポイラーと、後部トランクの気休め程度のスポイラーを装着してる程度だ。 足回りのチューンは、ショックをコニーに交換して、ホイールをハヤシの、火焔の模様のアルミ軽量ホィールに、換えてある。 車体の下部に位置するスプリングやショックアブソーバー、それに、スティール製ホイールをアルミニウム合金のものに、交換すると、フレームやボディを含む車体の軽量化の何倍もの、『軽量化による性能向上が期待できる』−からだ。 ショックアブソーバー取り付け位置より下の重量のことを、一般には『バネ下重量』−とよぶが、これは、軽量化だけではなくて、ステアリングのキレや運動性能の向上に、抜群の効果があるのだ。 しばしば、車体の軽量化の、つもりなのか、リアシートを、取り去ったり、スペアータイアを外しているドライバーを、見かけることがある・・・。 しかし、これは、マシン全体のウェイトバランスを崩すだけで、性能向上に、つながるどころか、それこそ、危険きわまりないクルマに仕上がってしまうものだ。 おおよそ、軽量化を意図するのであれば、前述の、いわゆるバネ下重量の逓減の方が、はるかにに、高い軽量化での性能向上と、コーナリング性能を飛躍的に上昇させるものであるからだ。
【第三章】
セリカ1600GTVは、センターピラーを持たない2ドアのハード・トップであるというところことが、デザイン上の特徴だろう。精悍でスタイリッシュなマシンは、YAMAHA発動機のチューンにより、DOHCの高性能なエンジンを搭載している。 大きく開口するドアを開くと、黒一色のシートに、滑り込むようにして、着座した。車高が低いため、シートから、地面に手が届きそうだ。 イグニッションを、ひねると、高速仕様のエンジンだが日立のフル・トランジスター・イグナイターの強力なスパークのせいか、一瞬で4本のシリンダーに、火が灯った。 ダッシュボードは、ブラックの微妙な曲線を描くフォルムの樹脂成型だ。回転計と、スピード計が最も目立っている。油圧計を含めると、実に、6連装のメーターが整然と並んでいるわけだ。 モーターサイクル・メーカーのYAMAHA発動機が、チューニングしただけのことは有り、セリカに搭載された2T−G型エンジンは、わずかに、1600CCの排気量ながら、6,400回転の高い回転数の領域でl15馬力を発生する。 セリカ1600GTVのカタログデータ上の最高速度は、190キロ毎時と、記載されていた。2T−GDOHCエンジンは、115馬力と、意外にも非力だが、1トンに満たない軽量ボディと、空力特性の優れたフォルムにより、純粋のスポーツカー並の性能を発揮することが、できたわけだ。 高速走行時の、セリカ1600GTVは、DOHC特有のカムが、のった如何にもマシンというエンジンサウンドを楽しませてくれる。 DOHC高性能:2T-G型エンジンなれではだ。
【第四章】
連装のソレックス・キャブレィターの吸気音が高まるとともに、回転計の針が急上昇する。ソレックス特有の吸気音は、2T-Gエンジンのダブル・オーバー・ヘッド・カムの性能を最高度に引き出すことができるのだ。 この強靱な発動機に、5速のクロスーズド・レシオの、トランスミッションを装備していたために、当時、セリカ1600GTVと互角に走行できるマシンは、おのずと限定されてしまう。 当時は、たしかにフェアレディやスカGも覇を競ったものだが、マシン自体が高額な上に、もともと、レース用のエンジンをデ・チューンしていたために、ハイオクタン・ガソリンの使用は当然として、定期点検ごとに、オイルパンに溜まった純正オイルは、まだまだ透明度が高くても、交換が義務付けられていたのだ。 わたしは、ふと、時計に目を、おとした。オメガ・スピード・マスターだ。学生には少々贅沢であったかも知れない・・・。 数分間のアイドリングで、ハイメカニズムのDOHC、2T−G型エンジンは充分に暖気運転されて、カムを駆動するシャフトやチェーンにも、滑らかなオイルが潤滑しはじめた。軽くアクセルを踏むと、シリーズ最強の1600CC、DOHC、2T−G型エンジンはキャブレターの吸気音とともに、轟然と吠えて車体を、ゆるがせる。精悍なセリカ1600GTVのダッシュボードの回転計は、一気にレッドゾーンに迄とびこむほどに跳ね上がった。油温計も適度な数値を示している。 わたしは、モータプールに敷き詰められた小石をはねとばしながら、住宅街の狭い路地を抜けていった。
国道20号線と交差する通称、水道道路を、60キロ毎時程度で巡航しながら、ステアリングを左右に振り、幅広のタイアを暖める。 国道20号線の大きな交差を右折すると、そのまま用賀に、向かう。
第三京浜国道の玉川I.Cに着くまで中低速から相当なトルクを発生する絶妙のチューニングのDOHC1600CCの2T−G型エンジンの、いわゆる『カムに、のる』−感覚を楽しむ。 ほどなく、第三京浜国道の玉川I.Cに、着いた。第三京浜国道の玉川I.Cの急カーブが連続す導入路でもスピードを減じる必要がないのは、特注のハード・サスとコニーのショックアブソーバーが不要なロールを打ち消してくれるからだ。 本線に合流すると、ポテンザのワイド・タイアが悲鳴を上げるほどに、急加速する。サードにシフトしたときには、すでに、140キロ毎時だ。
【第五章】
5速ミッションをサードで一気に引っ張り上げる。フォースに、シフト・アップして150キロ毎時で巡航する。サイドウインドウから吹き込む風は初夏のかおりだ。 マフラーカッターから吐き出される轟音は、ここちよいエンジンサウンドとミックスして何とも形容の出来ないほどの快感を与えてくれる。
フロントとリアに装着したエアロパーツのおかげて150キロ毎時程度になると、車体がズシンと沈みますます安定性が増すようであった。・・・・・風になった気分だ・・・・・。。 突然、バックミラーにパッシングが。振り返ると、そこには「どう猛」なフロント・グリルをむきだしにしたサバンナがあった。車体はブラック塗装だ。 サバンナは、走行車線に移ると、極端に幅寄せしてきた。サバンナのドライバーは、接触するほどに幅寄せをする。 わたしの駆るセリカGTVと、サバンナの間隔は、30センチメートルもないほどだ。 サバンナのドライバーは、リーゼントにしているが顔は良く見えない。そのサバンナは、車体余体をブラック塗装してあるがスモークドグラスで内部はよく見えない。 彼は右手の親指を立てて前に押し出した。勝負しようと言うわけだ。普段はくだらない挑戦には、のらないわたしも、その日は、左手の親指を立てて、GOサインを送った。 狂走の開始だ。わたしは、セリカ1600GTVのミッションをサードで全開にひっぱり上げた。オーバーレブ寸前で半クラッチでシフトアップする・・・。
セリカ1600GTVの2T−G型エンジンは、ポート研磨を含み徹底して高速型にチューニングをほどこしてある。プラグも高速仕様を装着している。 別途装備した、強力なスパークでガソリンに点火する日立製のフル・トランジスター・イグナイターも高速セッティングしてあるのだ。 ハーフ・クラッチのまま、フォースにシフト・アップする。すでに車速は1 7 0キロ毎時を超えている。エンジンルームから、熱風が吹き込んでくる。 わたしは、フォースでも、尚、回転を上げる2T−G型エンジンを、限界までまわして、比較的はやい時期にギアをトップにたたきこみ、アクセルをフラットな状態にまで踏む。車速はカタログデータの190キロ毎時を超えて195キロ毎時に達している。さらに、スピード・メーターは、限りなく200キロ毎時にちかづいている。 しかし、あきれたことにサバンナはその車速でも、なおも追随してくる。 12A型ロータリー・エンジン特有の金属音が高まり、スピードは、まるで無限に上昇するかの如くに加速を続ける。さすがは、MAZDAの社運を賭けてバンケル・エンジンをベースに、改良に改良をかさねて、ついに実用化に成功したロータリーエンジンだけのことはある。 ロータリーエンジンは、通常のピストンがシリンダ内部で上下する運動をクランクを介して回転運動に変換しているわけだが、この際のエネルギー・ロスを回避するために、楕円形のハウジング(レシプロエンジンのシリンダーに相当する。)の内部で、三角形状のローターが、楕円運動をしながら、ローターの1回転の内に、3回の吸気と爆発、そして排気を行うというものだ。最初から、楕円形ハウジング内部での回転運動とはいえローターは遊星ギアの働きをしており、内部のギアに直接回転運動を伝達するという合理的なメカニズムだ。
【第六章】
■ロータリーエンジン■ レースは常勝のロータリー エンジン搭載のマシンは圧倒的な速さであった。
『573CC×2ローター』の12A型は120PS/6500rpm、16.0kgm/3500rpmのハイパワーを誇り、パワーウェイト・レシオも7.38kg/PSを叩き出す。 MAZDAのロータリーエンジンは、日本グランプリでは常勝を誇る日産スカイラインGT−Rの50連勝をストップさせて、その後は、ロータリーエンジン搭載のマシンがサーキットに君臨することになったのだ。 ロータリーエンジンは往復するピストンのモーメントを減らし、より高効率でなめらかに回転運動を継続できるように、ピストンの代わりに三角形状のローターを用い、楕円形のローターハウジングの中で、エキセントリックシャフトというレシプロエンジンのクランクに相当する出力軸を駆動する。弱点は、高速で楕円運動する三角形状のローターの、コーナー・エイペックス・シールの、摩耗が、比較的早いということだ。
【第七章】
わたしの駆るセリカ1600GTVはFRP製のフロント・エアスポイラーとリアには樹脂製のスポイラーを装備している。 サスペンションなど下回りを徹底して軽量化とチューニングしてあることは言うまでもない事だ。後部にマウントしたエアロ・パーツは、それくらいのスピードになると圧倒的な効果を発揮する。車体全体が沈み込み、まるで路面に吸いついたかのようにセリカ1600GTVは疾走し続けた。 ついに、わたしの駆る勿り力1600GTVの速度計は、メーター読みではあるが、カタログデータの190キロ毎時を超えて、200キロ毎時を超えた。回転計は、すでに、レッド・ゾーンにはいっており、右側に、おおきくかしいでいるのが見えた。 あきれたことに、それでも、サバンナは、セリカ1600GTV横にぴたりとはりつき追走してくる。 サイドウインドウごしに、見えるサバンナのドライバーは、狂気の笑みを浮かべながらも平然としている。 しかし、如何に12A型ロータリーエンジンを搭載した、サバンナも、その200キロ毎時を超えるあたりが、マキシマム・スピードのようであった。 電動モーターのようにふきあがるマツダの12A型エンジンの特有の金属音が聞こえる。そのままわたしのセリカ1600GTVとサバンナの2車は、保土ケ谷インターまで疾走し続けた。 わたしは保土ケ谷インターに到着すると料金を払い、休憩所に向かった。サバンナも、咳き込むようなエンジン音を出しながら、ついてくる。 わたしは、セリカ1600GTVをとめて、車外に出た。セリカ1600GTVのタイヤをさわってみると高熱を発していた。また、ボンネットの隙間からは、かすかではあるが、煙が噴出していた。エンジンの最高度の性能を発揮したあとの、セリカ1600GTVのエンジンの特性だった。 サバンナを見ると、リーゼントのドライバーが降りてきて、自分のマシーンをしらべている。 まだアイドリングを両車とも続けている。いきなりエンジンを停止すると、高熱のためにエンジンが焼き付いてし,まうからだ。 サバンナは、マフラーからオイルの混じった白煙を噴出している。サバンナの12A型ロータリー・エンジンの特有の咳き込むような排気音は、乱れに乱れていた。 彼は、サバンナのエンジンをアイドリングさせたままで、わたしの横を、わたしを無視するかのように通りすぎ、休憩所のなかにはいっていった。
【ご留意】
「道路交通法」を遵守(じゅんしゅ)なさって下さい。車両や動力系統etc改造の場合は、ちゃんと車検を通して下さい。